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シャネルといえば、リトル・ブラック・ドレスでもわかるように、黒を基調にしたデザインが特徴のブランドです。シャネルのバッグに使われる黒のスムースレザーには深みがあり、一般的なスムースレザーとは異なるなめし方で加工されています。
このため、ブラックのシャネルバッグを染め直す際には、他のブランド以上にこだわりを持って行っています。
シャネルの黒は特別な深みと艶を持っているため、その質感を損なわずに染め直すことは技術と経験が求められます。
革修復どっとコムでは、シャネルのこだわりに応えるべく、丁寧で細やかな修理を行い、バッグの美しさを最大限に引き出しています。
シャネルのブラックは一色ではありません。
この画像のシャネル・マトラッセのバッグは色あせで染め直しの依頼を受けたものですが、暗めのブラウンに見えるかもしれません。
しかし、実はこのバッグはブラウンではなくブラックなのです。
シャネルのブラックはただ黒の顔料だけで染めているのではなく、様々な色の染料を用いてブラックに見せています。
これによって、通常のブラック顔料で塗るよりも深みのあるブラックを作り上げることができるのです。
この技法により、シャネル特有の深みのあるブラックが誕生します。
しかし、いくつもの色が使われているため、色あせや変色が進むとブラウン系の色に変わることがあります。
これが、シャネルのブラックが持つ独特の魅力と難しさを表しています。
シャネルのバッグを染め直す際には、この繊細な色合いを再現するために特別な技術と注意が必要です。
【before】
革製品の色あせが進み、変色してしまっている場合、一般的に使用されるアクリル配合の顔料では、濃度を濃くしたり何度も色を重ね塗りする必要があります。しかし、こうすると不自然な仕上がりになるだけでなく、使っているうちに表面がひび割れてボロボロになってしまうことがあります。
粘度の高さ: アクリル配合の顔料は粘度が高く、固形のような状態で浸透しにくい。
熱に弱い: 特に熱が加わると、加工面が貼り付きやすく、無理やり剥がすと塗料が剥がれてボロボロになる。
軽度の色あせにはアクリル顔料が使いやすいですが、極端に色あせた状態や全体の染め直しが必要な場合は適していません。
革修復どっとコムでは、アクリルを配合していない液体顔料を使用しています。この液体顔料は以下の利点があります:
素材に馴染みやすい: 液体なので、薄めなくても素材に馴染む。
硬化しない: 重ね塗りをしても硬くならず、ひび割れや貼り付きが起こらない。
このように、液体顔料を使うことで、自然で美しい仕上がりが実現します。
軽度の色褪せ程度ならば、アクリル配合の顔料は塗り重ねる必要がなく、調色も簡単で使いやすいため、多くの革製品の修復現場で使用されています。
しかし、極端に色あせした状態や全体の染め直しが必要な場合、特にお財布の内側面に色褪せがある場合には、アクリル顔料を使用しない方が長く使い続けるために良い選択です。
革修復どっとコムでは、こうした問題に対応するため、アクリルを配合していない液体顔料を使用しています。
液体顔料は、以下の利点があります:
素材に馴染みやすい: 液体のため、薄める必要がなく、素材に自然に馴染みます。
柔軟性を保持: 重ね塗りをしても硬くならず、ひび割れや貼り付きが発生しません。
上記の画像とアクリル配合の顔料を使用した場合の画像を見比べていただければ、その違いははっきりと分かるはずです。
下の動画では、液体顔料や染料で配合した溶剤を使用して染め直している様子をご覧いただけます。
これにより、どのように自然で美しい仕上がりが実現されているかを確認していただけます。
シャネルのマトラッセを筆で染め直している動画では、顔料がレザーに馴染んでいく様子がわかります。
アクリル顔料では、このようにならず、表面で固まってしまうことが多いです。
特に、シャネルのようなデザインにステッチを取り入れているアイテムの場合、アクリル顔料がステッチ部分にへばりつき、針穴を埋めてしまいます。
一方、アクリルを配合していない液体顔料は、ステッチにも自然に浸透し、馴染むため、ステッチの色褪せも同時に修復できます。
しかし、ステッチが白の場合は、ステッチに滲まないように注意が必要です。
このように、液体顔料を使用することで、シャネルのバッグの美しさを維持しつつ、自然な仕上がりが実現します。
【after】
液体顔料や染料は少しの配合の違いで色合いが大きく変わるため、慣れるまでに時間がかかります。
単純に染めるだけでなく、革の特性を理解しながら染めることが重要です。
この画像にあるシャネルのバッグでは、レザーの表面にざらつきと若干の色褪せが見られます。
通常の修復店であれば、色褪せとして単純に補色を施すことが多いですが、そのまま補色するのは実はあまりお勧めできません。理由は革の表面の加工にあります。
スムースレザーの革の断面を見てみると、革の上にはトップ層とバインダー層という2種類の層があります。
バインダー層は革に塗った色の層を指し、トップ層はこのバインダー層や革を外部からの擦れやキズから守り、艶感を調整するためのコーティングの層になります。
長年の使用でトップ層が剥離し、バインダー層の色が少し抜けた状態になることがあります。
これが、使用による擦れが積み重なった結果です。
このような場合、まず古くなったトップ層を革を傷めないように剥離し、その後バインダー層に補色を行う必要があります。
トップ層とバインダー層は成分が違うため、そのまま補色や染め直しをしても、トップ層に色が載るだけでレザーやバインダーには馴染みません。
シャネルのバッグのようにスムースレザーを使用している製品は、同じような加工がされています。
液体顔料や染料で丁寧に修復することで、自然な色合いと質感を取り戻すことができます。
【before】
【after】
【before】
【after】
製造段階での加工が施されているため、レザーの修復を行う際には、使用されているレザーの種類や状態を見分けることが必要不可欠です。
これにより、スムースレザーなのか、アニリンやセミアニリンなのかを判断し、適切な顔料や染料の配合と濃度、さらに必要な配合剤で調整が可能となります。
革修復どっとコムでは、各レザーの特性を理解し、丁寧に見極めた上で最適な修復方法を提案しています。
【before】
【after】
レザー修復のプロセスと配慮点
レザーの製造方法を見極め、その状態に応じて適切なクレンジングやしみ抜き、染め直し、艶調整が必要です。
例えば、このお財布のCCマーク部分はスムースレザーですが、白を必要とする色合いは染料では存在しないため、顔料が用いられています。
スムースレザーと判断し、適切な修復を行います。
修復のポイント
ふち周りの傷: 軽微な傷は形成可能ですが、折山など負荷がかかりやすい部分は、割れが生じない範囲で最大限対応します。
内部の色合い: カンボンラインに多く見られる鮮やかな色合いのピンク系はスムースレザーです。ショッキングピンクには蛍光色が必要となりますが、アクリル顔料では発色せずくすんでしまいます。一方、液体顔料はバインダー層に馴染み、鮮やかな色に仕上がります。
このように、各レザーの特性を理解し、適切な顔料や染料を選定することが大切です。
【before】
【after】
【before】
【after】
内側面のレザーは染め直しを行い、コインケース内などのキャンバス部分はクレンジングしてしみ抜きを行います。キャンバス生地の場合、汚れが刷り込まれてしまうと薄く残ることがあります。
特に生地が傷んでいる場合は無理ができないため、写真のようにキレイにしみ抜きができない場合もありますが、出来る限りキレイになるように最善を尽くします。
【before】
【after】
次にご紹介するのは、トップ層が剥がれ、バインダー層までほぼ色褪せて乾燥した状態のバッグです。
レザーが乾燥してしまった状態では、まず加脂剤を使ってレザーに潤いを与えます。
これは、レザーをなめす際に使用されるもので、乾燥したレザーに十分な潤いを戻すことができます。
潤いを与えた後、染め直しを行うことで、バインダー層とトップ層が滑らかに仕上がります。
このプロセスにより、レザーは再び柔らかくしなやかになり、見栄えも大幅に改善されます。
【before】
ふち回りの深い傷は少し痕が残りますが、乾燥しきってパサパサした状態は大幅に改善しました。
潤いを与えることで、レザーは再び柔らかくしなやかになり、染め直しの際にレザーにバインダーが馴染みやすくなり、潤い感のある仕上がりにすることが出来ます。
【after】
こちらのバッグは色あせして少し青みがかった色に変色していましたが、革修復どっとコムでは、このような状態でも適切な修復を行います。
レザーが変色した場合、まずは色合いの確認と適切な染料の選定を行い、色を均一に戻すための手順を丁寧に進めます。
レザーの状態に合わせて染め直しを行い、元の美しい色を取り戻します。
【before】
【after】
下地まで色褪せてしまった酷い色あせも、レザーの特性を理解しながら修復することで、バッグは見事に蘇ります。シャネルのブラックレザーは、艶感を強めにすることでその高級感がより引き立ちます。
この艶感の調整は、配合を変えるだけで対応可能ですので、お好みに合わせて仕上げることができます。
革修復どっとコムの染め直し方法を以下の通りご紹介します。
レザーの構成要素を理解し、まずはクレンジングで表面の汚れと色止めや艶調整の役割があるトップ層をレザーを傷めない範囲で取り除きます。
次に皮が鞣されて革にになる段階で、革の表面に着された層があり、その層をバインダー層と言います。
バインダー層はレザーの表面を隠すお化粧的な役割があります。
クレンジングの後、バインダー層に馴染むように調色と配合をして極端に色褪せた部分は染め直し、状態の良い部分は補色して全体のバランスを整えます。
最後に色止めや艶調整の役割があるトップコートを施します。
透明感のある艶を少し出すことで、新調感を出し、完成となります。
この方法を革修復どっとコムでは、「銀面生成」と言っております。
皮が鞣され革になる製造段階と同じ方法で染め直しを施しているので、ナチュラルに見栄えよく仕上げることが可能となります。
詳しくは、こちらからご覧頂けたらと思います。
シャネルをはじめ、多くのハイブランドは色使いや革の製造工程にまでこだわりを持ち、製品を作っています。
このようなこだわりがあるからこそ、修復を行う私たちも革製品の製造工程を深く理解し、染料や顔料にもこだわりを持って修復に取り組む必要があると考えています。
お客様に長く大切に使っていただくために、私たちはこだわりを持った修復を心掛けています。
良い品を長く愛用していただくために、これからも丁寧で質の高い修復を提供してまいります。
引き続き、ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。
何かご質問やご相談がありましたら、いつでもお気軽にお問い合わせください。
私たちは職人の育成を重要なミッションとして、高品質な修理サービスを提供し続けるため、次の世代の職人を育てる取り組みに力を入れています。
①実践的な練習
傷んだブランド品を安く仕入れ、練習用に使用しています。
これにより、職人たちはリアルな修理経験を積むことができます。
②専門的な指導
経験豊富な職人が新しい職人に対して指導を行い、技術を継承しています。
高度な技術を伝えることで、全体のクオリティを保っています。
③多様な修理実績
ルイヴィトン、エルメス、シャネルなどのハイブランド品を取り扱い、さまざまな修理経験を積むことで、対応力を高めています。
④もったいない精神
日本の「もったいない」精神を大切にし、使い捨てではなく、修理して長く使う文化を広めています。
上記の取り組みとして、以下の方法で職人を育成しています!
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